「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q EVANGELION:3.333」

本作は、2012年11月に公開された「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」のバージョンアップ版であり、全カットを2K解像度で再撮影し、IMAX対応したものであるという(詳細は「【緊急解説】 ここが進化した! 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q EVANGELION:3.333』IMAX®上映」参照)。

実を言うと、公開後のフィルムに手を入れて、映像や音を修正するという行為があまり好きではない。こうした版を後から観ると、劇場公開当時の思い出を書き換えられてしまうような気分になってしまうためだ。個人的には、入力ソースは極力変えず、出力する環境だけを変えて上映してほしいものだと思う。
どうせやるのなら「ブレードランナー ディレクターズ・カット版」みたいに、内容や結末そのもの自体もいじって、別物として公開してほしい。

ただ、そもそも「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」自体、公開当時はそれほど思い入れがあったわけでもないし、劇場で観たときの記憶ももうほとんど無い(なんせ、8年以上経っているわけだし)こともあり、IMAXエヴァを観るいい機会だと思って、でかけてみることにした。

さて、2007年公開の「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」から始まった本シリーズだが、旧劇場版から10年後にエヴァをリブートする、という状況や、それにともなう評判を自覚的に作中へ取り込んでいる構造になっていると、個人的には思っている。
例えば、新劇場版の世界は、まるで旧劇場版の後の、やり直しの世界に見えるわけだが、こうした世界観自体が、新劇場版の位置づけと同化している。また、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」を観ると、ゲンドウが強引に人類補完計画を進めようとしている感があるのだが、これも、新劇場版と銘打って、かつてのエヴァブームをもう一度無理やり作り出そうとしている、といったような冷めた批判を取り込んでいるのではないだろうか。
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」になると、エヴァの呪いでパイロットは年をとならない、という設定が出てきて、エヴァから離れられないオタクやそれを作ったスタッフ(特に庵野秀明)そのものではないか、ということになった。また、作中ではネルフに敵対するヴィレという組織がでてくるわけだが、庵野秀明が、かつていたガイナックスを離れて、スタジオカラーを設立したことが反映されていると見えなくもない。


……そして、シリーズの制作は一時停止状態となり、月日が流れ、実に8年も経った。
世界も色々変わった。

庵野秀明は、「シン・ゴジラ」の大ヒットにより、代表作がひとつ増え、なんでもかんでもエヴァっぽくなるという問題自体が割とどうでもよくなった(ように見える)。かつて、綾波レイは「シンジくんがエヴァに乗らなくていいようにする!」と使徒に特攻したわけだが、庵野秀明は(はたから見ると)エヴァに頼らなくてもいい監督となった。
エヴァンゲリオン自体が、消費し尽くされてしまい、過去の名作のひとつとなった感がある。Qのもやもやとした終わり方と、次はどうなるんだー、という焦燥感は、もう忘れ去られようとしている。

今回、いよいよ始まる「シン・エヴァンゲリオン劇場版」公開にあたって、本作を含めて過去作がいろんな媒体で頻繁にリバイバル上映されているわけだが、そうでもしないと、これまでの物語自体が忘れさられてしまっていたり、そもそも何も知らない人も沢山いたりして、誰からも興味をもってくれないおそれがあるからだ。
おまけに、新型コロナウィルスの影響で、おおきなイベントも行えなくなり、さらに別のアニメ作品が超絶大ヒット中ということもあり、今回はどこまで興行成績を伸ばせるんかなあ、という気になってくる。

そんな状況でIMAXにて「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q EVANGELION:3.333」を観てみると、色々感慨深い箇所が出てくることとなる。

本作では、シンジが目を覚ますとそこは14年後の世界で、サードインパクトを起こしてしまったことで、ヴィレメンバーから白眼視されている。このときの、誰からも頼られず、逆に忌み嫌われるシンジの描写が、「今だにエヴァを忘れられないオタク」の痛々しさに重なってしまう。
その他のシーンでも、シンジや、周りのキャラクターの描写のことごとくが、古のオタクやスタッフたちのように思えてくる。
例えば、作中、どうみても一番子供っぽいアスカが、シンジをガキ呼ばわりしているあたりとかは、古参のオタク同士がマウントを取り合っている様に見えてくる。ヴィレの古参クルーであるマヤが「これだから若い男は……」とか言っているのも、いかにも老害オタクという感じがする。
なかでも、シンジが「僕がエヴァに乗ります!」とミサトに訴えるところの、いたたまれなさは、今だからこそよりリアルに感じられるところがある。シンジくん、エヴァはもう……。

先に書いたとおり、もともとの「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」自体、「エヴァを忘れられない人たち」というテーマを内包していたと思うのだが、あれから8年経ち、「シン・エヴァンゲリオン 劇場版」公開直前というタイミングで観ると、内容がより直接的に胸にせまってくる。

……そんな痛々しいドラマの後に待ち受ける、終盤の黙示録的世界を堪能し、スタッフロールを見ていたのだが、次回予告が完全に新しくなっていて、テンションが上った。
ようするに、「次でちゃんと終わらせますよ!」ということを言っている予告なわけだが、あらためてQを観たあとだと、そりゃそうなるようね、という感じがしてくる。実際どうなるかわからないけど、なんとなく、各キャラクター(特にシンジ)からエヴァをどうやって解放してあげるのか、ということがキーになるんじゃないかなという気がする。

とまあ、色々書いてきたが、それはそれとして、冒頭のUS作戦~ヴンダー発進シーンがIMAX版となって超絶大迫力になっていたり、終盤のバトルがよりすさまじくなっていて、ひじょうに見応えのある一作となっている。
Qに失望した人も是非、シン・エヴァを楽しみにしている人はよりいっそう、本作を観ると色々得るものがあるんじゃないかなと思う。

世の中は、まるでフォースインパクト後のように混沌としており、本当に予定通りの日程でシン・エヴァンゲリオンが公開されるかはわからないが、どのようなタイミングにせよ、無事、劇場で観られるようになることを願ってやまない。
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