シナリオの矛盾点は、登場人物に指摘させるとよい(ことがある)

「SHIROBAKO」第12話では、主人公でアニメ制作進行の宮森あおいが、難易度が高くてひきとり手が誰もいないカットの原画を依頼するため、超一流アニメーターである菅野の元を訪れることになる。

ここで、菅野は、宮森がいるアニメーションスタジオには、自分よりも適切な原画マンがいることを告げる。彼の名は杉江茂。彼は高齢のため、絵柄が現在のタッチと合わず、他社の子供向けアニメを担当していたのだった。しかし、杉江はこれまで数々の名作を手がけた凄腕のアニメータであることを菅野は力説する。

ということで、宮森は杉江へ原画を依頼し、彼の下でスタッフが奮闘するというのが今作の見どころになっている。

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しかし、このストーリーにはひとつ問題がある。新人の宮森はともかく、彼女らが所属しているアニメーションスタジオ(武蔵野アニメーション)の人たちなら、古参の杉江の経歴くらい知っているはずだ。ならば、社長やラインプロデューサー、制作進行の先輩あたりが宮森に彼を推薦するというのが本来のあるべき姿であるはずだ。

一応前話で、杉江が候補に上がるが「絵柄が合わないしー」みたいな会話があって、否定されるというくだりがあったのだが、そもそも件の箇所は「馬の大群を描けるアニメーターがいない」から問題となったので、人物の絵柄はあんまり関係ないだろうし。

……とは言うものの、ここで先輩らが宮森に杉江を推薦してめでたしめでたし、ではお話としては面白くなくなってしまう。切羽詰まった宮森が、庵野秀明を思わせる超一流のアニメーターに会いに行くからこそ、ドラマになる。そして、庵野……じゃなくて菅野から「これをわしが描く意味ってなんだろう。どうしてわしに頼んで来たの? 誰でもよかった?」と諭され、のちに宮森が「この仕事は杉江さんしか出来ないと思います」と言い切るという展開こそが、このエピソードの見どころのひとつになっている。

なので、シナリオ的には、どうしても先輩らには杉江の経歴を忘れてもらう必要があったわけだが、ここで、視聴者の先手をうって、登場人物に問題を指摘させたのがうまいやり口だった。
宮森に杉江を推薦した菅野は最後にこう言う

「逆に言うと何で杉江さんに頼まないか不思議だけどね」

この一言を挟むことで、杉江の扱いを巡る問題は「シナリオの矛盾点」から「登場人物の問題や都合」にすり替えることができたのだった。宮森が原画マンを求めて右往左往しているときに、先輩らは何をやっていたのだまったく。

ちなみに、シナリオ上の問題はもうひとつあって、宮森の行動があまりにも遅いのだ。
宮森は、菅野と話をした翌日の夕方の会議で初めて杉江の話を切り出し、その夜に杉江邸に訪れ説得、翌々日の朝から本格的に作画作業開始となるわけだが、これはさすがに後手後手に回りすぎだろう。
遅れに遅れている制作進行を考えれば、菅野邸を辞した直後にスタッフに連絡を取り、翌朝に杉江に依頼するくらいのことをすべきだろう。

これは、おそらく、夜の杉江邸で夫人をまじえて話をするシーンを描きたくて、そこから逆算した時系列で物語の進行を決めたのだと思われる。
ただし、必然的に発生する進行の遅れ問題に関しては、登場人物は誰も突っ込みを入れていない。まあ、突っ込みが入ると、宮森が一方的に悪者にされてしまうわけで、彼女を必要以上に無能にさせるわけにはいかないのであろう。それに、今作のクライマックスである怒涛の追い込みシーンをがっつり描かれていたことで視聴者はあんまり気にならなかったはずだしね。