大傑作に成り損ねた良作 「JUDGE EYES:死神の遺言」

本作は、「キムタクが如く」の愛称がつけられているように、木村拓哉が主演していることが大きな話題を呼んでいる。

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確かに、ゲームを始めた頃は、カツラを「ちょ、待てよ!」と言いながら追いかけたり、風俗に行ってえらい目にあったりして、その操作キャラがキムタクである、というのはなかなか面白みがあった。

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ゲーム内で、ちゃんと主人公(キムタク)も入れて写真をとれるようになっているのはさすが


ただ、自分がそれほど木村拓哉に思い入れが無いということもあるけれど、ゲームを進めれば進めるほど、実感したのは、むしろ、本作のストーリーと演出の素晴らしさだ。

本作では、メインストーリーが全13章で構成されているが、それぞれの章の終わらせ方が絶妙にうまい。大抵、章の最後は事件の思わぬ真相や、新しい展開が示され、一体これからどうなるんだ? という絶好のクリフハンガーとなっている。
ちなみに、各章の冒頭では最初にこれまでのあらすじが説明されるのだが、大抵は章の終わりの展開に衝撃を受けて、ただちに次の章を始めるため、「あらすじなんてとっくにわかっとるわ。さっさとゲームを進めろや」という気分になってしまう(もしかすると、ローディング時間を稼いでるのかも)。でも、こうした章で区切ったり、各章の冒頭にあらすじがあると、よく出来たテレビドラマを観ている気になってくる(内容的にはVシネだが)。

ストーリー自体は、主人公が手がけることになるヤクザの殺人事件と、そこに暗い影を落とす、過去の忌まわしき出来事という構成になっており、人物や時制がいりまじる複雑な展開になるわけだが、物語が適切に整理されているため、プレイしていてとまどうことがない。意外な人物の名が読み上げられた際に、
「一体誰だっけ?」となってしまうことはなくて、ちゃんと驚くことができる。

また、主人公だけではなくて、様々な個性的なキャラクターが登場するのも本作の特徴だ。
個人的には、ピエール瀧が演じる羽村のワルっぽさがすごくよかった。また、俳優がモデルではない、東徹というヤクザが出て来るのだが、自分が寄って立つ正義を探し求める彼の描写がとても良く出来ていた。本作の裏主人公と言って過言ではないだろう。


と、まあ、ストーリーはよく出来ているのだが、ただ、「よく出来ている」どまりの内容であるとも言える。
全体としてテーマ性が希薄で、エンディングを迎えると、何も残らないのだ。ここまでストーリーで魅せることができるのなら、もっとプレイヤーに考え込ませるような内容にしてほしかった。
例えば、本作では、医療サスペンスの側面があって、作中に出てくるとある病気についてかなり詳しく解説されているのだが、後半になると病気の取り扱い方が荒唐無稽になってしまっており、結局フィクションとしてしか楽しめない。
どうせなら、実際に本作で取り上げられている、病気の患者を作中に出したりするだけでも、臨場感が変わったのではないかと思う。
また、主人公は暗い過去を背負っているのだが、ストーリーの進行とともに自動的に解消されてしまう感があり、人間性を深めたり、なんらかの成長を促す要素になり切れていない。

ゲームシステムについては、いろいろ不満がある。
本作については、よく、尾行モード(相手の視界に入らないようにこっそりと尾行するモード)がつまらないと言われているが、はっきり言って、ありとあらゆるモードが繰り返しのプレイに耐えられないものばかりだ。
街のチンピラにふっかけられるバトルもダルい。お金を落としてくれるときはありがたいが、それも無いとただただ時間を無駄にした気分になってくる。やっかいなのは、一定時間がたつと京浜同盟の幹部(どっかの街からやってくるヤクザ)がそこら中で暴れ出すことで、それを収めるのにいちいち戦わなければならない状態になると、ダルさがさらに増すことになる。
街の評判をあげるためのミッションもめんどくさいし、彼女とデートするたびにやらなくてはならないゲームもつまらない。
ゲーム中盤(だいたいプレイ時間が15時間くらいに到達したころ)あたりから、メインストーリーを進めること以外の操作がどんどん苦痛になってくる。

これは、ひとつには、本作ではレベルの概念が薄いこともあるだろう。一応バトルに勝利したり、ストーリーを進めるとSpを獲得し、様々なスキルを獲得できるのだが、体力と攻撃力について3段階程度しか上がらないので、成長の感じが乏しい。全体的に、ユーザへ適切なタイミングで適切な達成感を与えることに失敗していると思う。
そういう意味では、尾行モードとかの方がまだストーリー性があって、バトルよりも面白いところがあった。また、鍵をこじ開けるところは、サムターン回しとかは正気とは思えない難易度で、さすがにこれはまずいと製作者が思ったのか、中盤以降は比較的簡単なピッキングばかりで、これはまあ、操作を盛り上げるという意味でよかったのではなかろうか。
調査アクション | JUDGE EYES:死神の遺言 | セガ公式サイト


また、UIが全体的にしょぼいのも気になるところだ。操作感そのものは悪くはないんだけれど、デザインは出来合いのアドベンチャーゲームライクで、いまいち没入感に乏しい。

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いまいちなアイテム選択画面。デザインにもうひと工夫あってもよかったような


総論としては、ストーリーはすごく良くできていて、ゲーム自体も前半までは割と面白い。
ただ、後半はゲームのありとあらゆるところが徐々に作業と化してしまい、ダルくなる。ストーリーは最後まで楽しいが終わると何も残らない、という感じだろうか。

ストーリーがより良かったり、ゲーム自体がもっと楽しかったら、2018年を代表する作品になったのになあ、と思う。
本作は、神室町を舞台としたオープンワールドであると捉えることができるのだが、画面の端から端まで数分程度で到達できる程度の規模で、海外のAAA級ゲームと比べると、すさまじい狭さになっている。でも、実は密度が高ければ割と気にならないし、むしろ長所になりうるのではないか、ということがわかったのも収穫だった。

ということで、次回は是非、さらに上を目指した至高のゲームとしてほしいものだと思いました。

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